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旭川家庭裁判所 昭和61年(少)1444号 決定 1987年3月09日

少年 N・H(昭和47.7.4生)

主文

少年を旭川保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)

少年は、中学2年生であるが、昭和61年7月初め頃1か月ほど前に知り合つたA(昭和47年6月28日生)が少年の悪口を言つていると友人から聞かされ、同人を殴るなどしたが、その後にも同人が少年の悪口を言つていると聞かされ、これに立腹して同月20日頃から同年9月初め頃にかけて数回にわたり、同人に対して殴る蹴るなどの暴行を加えるとともに、Aが金員を払うと申し出たことを奇貨として、腹いせと小遣い欲しさに金員の交付を要求していたが、Aはそのつどその要求に応じるような言動を取りながらいずれもこれを実行しなかつた。

少年は、

第1  Aから金員を喝取しようと企て、Bと共謀して、同年9月5日午後3時40分頃Aを深川市○○町字○○××番地の×先深川市○○野球場バツクネツト裏の○○橋下に連れ出し同所において、同人に対し、腰付近を数回蹴り、右手拳で頭部付近を2、3回殴打し、所携の木の棒で6、7回突くなどし、畏怖して泣きだした同人に対し「もう1000円もつてこい」、「利子が付いて2000円だ」などと言つて脅迫して、金員の交付を要求し、Aをして、もしその要求に応じなければさらに身体に危害を加えられかねないものと畏怖させ、同月10日午後3時40分頃B及び同日共謀に加わつたCとともにAを同市○○町字○○××番地の×先○○橋下、○○川左岸の河川敷に連れ出し、同所で、Bにおいて上記脅迫によつて畏怖しているAの着衣から現金1000円を取り出し、これを同人に黙認させて上記金員の交付を受けて、これを喝取した

第2  さらに、上記犯行に引続き、同日午後3時45分頃要求した2000円をAが持つてこなかつたことに憤慨し、Aに対し、同所○○川護岸において「なんで1000円しか持つてこないのよ」などと怒鳴りつけながら、同人の大腿部付近を4、5回蹴り、さらに横転した同人の背部、腰部を2、3回蹴つたのち、馬乗りになつて前額部を2、3回殴打し、同所○○川川岸において大腿部を5、6回蹴り、手拳で前額部を2、3回殴打するなどの暴行を加え、この執拗な暴行に耐えかねた同人をしてこれを避けるため○○川内に逃げ込ませ、同川内において溺れさせ、よつて同日午後3時55分頃同人を溺死させた

ものである。

(適用した法令)

判示第1につき 刑法60条、249条1項

判示第2につき 同法205条

(処遇の理由)

1  本件(判示第2)は、少年において、自分より弱く能力が低いと思つていた被害少年から悪口を言われて馬鹿にされたと感じ、さらに被害少年が金を払うと言つたのに一向にこれを実行しないのでますます馬鹿にされたと感じて腹を立て、少年の攻撃に対して無抵抗な被害少年に対して判示冒頭のとおりの長期間にわたる断続的な暴行を加えた上、攻撃をエスカレートさせて判示第2の執拗で激しい暴行を加えた結果、これに恐怖感を抱いた被害者を川に逃げ込ませ溺死させたというものであつて、少年の行動は悪質であり、これによる悲惨な結果も重大であつて、少年の責任は大きい。

2  しかし、少年には普段、粗暴な行動はみられず、むしろ消極的で、生真面目な生活態度であつたことが窺えるのであり、少年の本件非行は、少年の陰湿、攻撃的な性格によるというよりも、少年において、誰もが多かれ少なかれ有している攻撃的な感情を適切にコントロールする訓練が不足し、攻撃性の抑制が相対的に未熟であつたために、無抵抗な被害少年に対して感情の赴くままに行動してしまつたというものであつて、少年の非行性自体はいまだ初期の段階に留まつているというべきである。

3  少年は、重大な結果が生じたことで、自己の行動の非道さを初めて認識して事態を深刻に受けとめ、本件後は、自重した生活態度をみせている。

4  少年の家庭は、堅実な家庭であり、少年と父母との間には特に葛藤はなく、父母は、少年の教育に関心を有している。また、少年の在学する中学校側も本件を単に少年だけの問題としてではなく、すべての生徒に通じる問題と捉えて生徒を指導する方針をとり、少年が他の生徒から孤立したり、攻撃の対象にならないよう配慮しており、そのためもあり他の生徒も本件のことで少年を責立てるということもない。したがつて少年の父母や中学校側に少年の保護と監督を期待できる。

5  また、少年の居住する地域の住民は嘆願書を寄せるなどして、少年の在宅による更生に理解を示していることが窺える。

6  以上によれば、少年に対しては、施設収容による矯正教育までは必要ではなく、在宅による更生を期待できるというべきである。そして少年に、不満や攻撃感情を適切に発散させ、建設的な解決を図りうる力を身につけさせるために指導し、また、今後予想されないではない本件に関連して起こりうる困難や障害を少年が乗り越えることができよう少年と父母を援助するために保護機関の継続的な関与が必要であると思料する。

よつて、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 佐々木洋一)

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